もの忘れと認知症

物の名前が出てこなかったり、お昼に何を食べたのか忘れてしまったりすることがあると「認知症が始まったのでは?」と不安に思うことはありませんか。しかし、自然な加齢による単なる物忘れと認知症とは明らかに異なります。

認知症の場合は、物の名前だけでなく物事自体も忘れてしまったり、食べたメニューを忘れるだけでなく食べたこと自体を忘れたり、忘れたことを取り繕って間違ったメニューをはっきり答えたりします。こういった物忘れが最近ひどい場合は要注意です。 また現時点では認知症とはいえなくても、将来認知症に進んでいく可能性の高い、軽度認知障害というものもあります。

認知症の高齢者の割合は、85歳以上では 30%近くに達し、160万人以上といわれています。今後高齢化社会に伴いますます認知症は増えつづけると思われます。

認知症の原因にはいろいろなものがあります。最も多いのはアルツハイマー型認知症と脳血管性認知症で、この2つで認知症の約8割を占めています。以前は脳血管性認知症のほうが多かったのですが、1990年代になると逆転しアルツハイマー型認知症の割合が増えてきて、欧米型となってきています。

この2つ以外の認知症の原因としては、頭の病気では、頭部外傷後に頭に血がたまる硬膜下血腫、頭の中に脳脊髄液という水が大量にたまっておきる水頭症、脳腫瘍などがあります。また体の病気ではホルモン異常、ビタミン欠乏症、感染症、薬の副作用によるものなどがあります。これらによる認知症は、早期であれば、原因となっている病気を治療することで治ります。

神経細胞が変性、減少し、脳が萎縮するアルツハイマー型認知症でもこれまでは有効な治療法はありませんでしたが、新しい薬が登場し、徐々に治療法も進歩しています。アルツハイマー型認知症の人の脳では、神経伝達物質のアセチルコリンが大幅に減っていることが知られており、それを増やす薬を投与することで、症状の改善や進行を遅らせることができる場合があります。

また脳梗塞や脳出血などによる脳血管性認知症でも、高血圧や高脂血症、糖尿病などを治療したり、また血管が固まるのを防ぐ「抗血小板薬」や脳の血流を促す「脳循環改善薬」を用いることによって脳血管性認知症を防ぐことができます。

認知症もこのように、予防や治療、あるいは進行を遅らせる手だてが増えています。

認知症は治らないと決め付けないで、一部には治る認知症もあることを認識し、早めに専門科へ受診し、正しい診断、正しい治療を行うことが大切です。


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